マラケシュで今もっとも話題のNGO団体運営レストランAMAL

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15年以上も昔の話し、モロッコで交換留学生をしていた頃、その大学にはアメリカ人留学生が20名以上いました。

うるさいな~アメリカ人は、というのが第一印象、賢いなあ~アメリカ人は、というのが付き合って分かったこと。
そんな彼らがちょくちょく話題にしていたのが、1970年代にマラケシュ旧市街に家族で移住してきたアメリカ人夫婦の体験記。夫婦は文化人類学者で、マラケシュ旧市街でのリアルな生活体験をエッセイとして書き残しました。
その本が、マラケシュピンクの装丁が印象的なこの一冊。(タイトル A street in Marrakech)



夫婦に子供がいたというのはエッセイを読むと分かるのだが、まさかそのうちのお一人がマラケシュでモロッコ人と結婚され、家族を作り、NGO団体をたちあげ、その活動の一環としてレストランを始めたと知った時は、不思議な感覚を覚えたものです。
創立者は、NORA(ノラ)さん、3児の子供の母でもあります。

マラケシュで社会の底辺に転げ落ちてしまった女性の社会復帰をサポートする場として運営されているレストランAMAL。(AMALはアラビア語で希望の意味)

今ではランチ営業だけで1日100人~200人が訪れる人気のスポットになっていて、トリップアドバイザーの評価も高い。
わたしも何度か通いましたが、non-profitでやっているとは思えない垢ぬけた雰囲気で、緑生い茂る中庭にはいつもお客さんで賑わっています。働いているスタッフの笑顔からも、サービスからも真剣さが伝わってきます。

Amal center

restaurant amal marrakech

NORAさんは高校までマラケシュで教育をうけ、アメリカの大学に4年間通い、故郷モロッコに戻ります。
外国で高等教育をうける機会に恵まれた人は、その知識とノウハウを祖国に還元した方が良いと彼女は言います。

それはさておき、モロッコでは、15年以上前と比べると少なくなった感はありますが、特に都市部で、物乞いは普段の景色の一つになってしまっています。
彼女もマラケシュで日常的に彼らの姿を見ていました。
そんな中で、彼女自身が母となった時、変化は起きたそう。

Amal Gift corner

Amalではお菓子のテイクアウトもできます。ここのモロッコ菓子おいしそうですよ!

路上で彼女と同い年ぐらいの子供2人を抱えた女性の物乞いに出会った時、もう無視して通り過ぎる事はできなくなったのです。
彼女がなぜ物乞いをせざる得なくなったのか、またどんな生活をしているのか実態を知りたい、と友達になります。

そして彼女が1日物乞いをして得るお金が1日120円~250円だと知ります。
これはモロッコでも、喫茶店でコーヒー1杯を飲むのがやっと、という金額。
実際、彼女の子供はいつもお腹を空かせていたそうです。
そしてこの女性が、腹を空かせた自分の子供を、NORAさんが自分の子供を愛しているのと同じように、とても愛していることに心が痛み、何か行動しなければ、と動き出します。

仲間と協力し、食事や服、お金を集め、寄付してまわります。
しかしその行動は単に一時しのぎに過ぎないと感じ、恒久的な援助となる方法を模索するのです。一時しのぎの援助に頼らず、一生、自らの力で生きていくために必要なものは何か?と考えます。

その答えが、働く能力と仕事です。

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AMALでは6か月を1タームとして、社会の底辺にいた女性に研修の機会を与えています。
研修内容は、レストラン用料理スキル、衛生観念の学習、サービスに必要なフランス語の習得など。

2012年にスタートしたAMAL、風の便りで研修を希望する人の数は増える一方。
20人枠に90人が希望してくる場合もあり、何度も面接を繰り返し、レストランでの仕事に合っているか、モチベーションは続くか、などをしっかり確かめるそう。
6か月の研修を終えた女性の8割が就職先を得ており、特にマラケシュで人気のRIAD(邸宅ホテル)で働く女性が多い。
路上で物乞いをしていた女性、家事手伝いしかできなかった女性が、誇りと笑顔を取り戻し、自活できる力をつけると、どんどん輝きだすそうです。

AMALではそんな、やる気と自信を取り戻した能力のある女性に、飲食店の経営のノウハウを教える講義もしていて、実際に研修生がプランを考え、コンペで選ばれるとそのビジネスプランを金銭的に援助までしています。

マラケシュに女性経営者が運営するレストランが増えればきっと何かが変わるかもしれない、AMALの今後の活動から目が離せません。
また1か月単位のボランティア、日常的に手伝いに来てくれるボランティアも募集しています。

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モロッコの最も大きな問題の一つは、識字率の低さだと思います。
少し古いデータ( by UNESCO)ですが、2011年でモロッコ全体の識字率67.08%(15歳以上の人口)、女性に限って言うと57.64%(15歳以上)まで下がります。

都市部では働く女性が目につき識字率なんて、という印象ですが、地方もいれると5年前でこのデータです。
10人いれば、4人は字の読み書きができない。

新しい知識を得たり、人生の選択肢を広げたり、自活していくためには、文字の読み書きがいかに大切か、モロッコにいるとしみじみ思います。
そして、日本の識字率の高さ、どんなに貧しくても読み書きはできるようになる環境がいかに有難いか、痛感します。

ちなみにフランス系女性団体(Orange Foundation)が、女性の地位向上のために働いている彼女をWoman of the year(2015)に選出しています。

(記事内で利用している写真すべて、レストランAMALから正式に提供を受けたものです。)

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コメント

  1. kaya より:

    こんな素敵なレストランがあったなんて、全く知りませんでした!路上で子供を連れて物乞いしている人を見るたびにこんな理想的なストーリーが頭を過りますが(職業訓練して自活できるよう援助する等)、実際にそれが出来るかと言われれば、至難の業。大変な苦労があると思います。このレストラン、今度行ってみます!

  2. secrets-maroc より:

    kaya-san
    そうなんです。ここNGOとは思えないほどいい感じのレストランですよ。リラックスできます。45歳ぐらいまでの女性で、収入が極端に少ないもしくは全くないというのを政府が証明する紙「RAMED」というのを持っていれば、候補者として応募できるそうです。わたしは昨日、日が暮れてから旧市街で3歳ぐらいの子が若いお母さんと物乞いしているのも見てしまい…。最近は、慣れっこになってる部分もあったのですが、やはり小さい子と目が合ったりするとやりきれないです。